盲腸で入院したときの話

小学校5年生の時に盲腸で近所の病院に入院した時のこと。
手術を終えた僕は付き添いが母親だったこともあり回復室代わりの2人部屋を女性の患者さんと使う事になりました。

隣のベッドの女性は翌日に控えた婦人科の手術に係わる術前処置のためにこの病室にいるらしく、30代後半の痩せ型の方でスッピンの顔が中国人女性っぽいなというのが挨拶を交わしたときの印象でした。いま思えば女ざかりの綺麗な女性だったはずだが、当時小学生の僕には母親と同年代のおばちゃんにしか見えなかった。

僕はオナラさえ出れば明日には一般病棟に移る事になっていたので特に緊張感も無くベッドに横になっていたのですが、隣の女性はなにやら色々明日の手術に向けてこなさなくてはいけない処置があるらしく、夕方くらいからナースステーションに呼ばれていったり、ベッドの周りのカーテンを掛けてなにやらゴソゴソやっていたりとバタバタとしていた。

夜、消灯になる少し前に看護婦さんがやってきて「ヒマシ油」なるものを隣の女性に飲ませると病室から出て行った。

「ヒマシ油ってなに?」興味津々で母親に聞く僕。
母は少し困ったように声を潜めながら「隣のお姉さんは明日手術だからおなかの中をキレイにしておかなくちゃいけないの」おバカな僕にはいまひとつピンと来ない。「どうやってキレイにするの?」母はあきらかに怒った口調で「あのお薬を飲むとうんちがいっぱいでるの。もう寝なさい!」なんで怒られてるかもいまひとつ理解できなかったが、隣の女性もその間ひと言も発しなかったので、これ以上質問しちゃいけないんだなという事だけは理解することができた。いま思えばこの会話を隣の女性はどんな気持ちで聞いていたんだろう。

(そうか、隣のおばちゃんはこれから寝るまでにうんちをしなくちゃいけないんだな・・・)

消灯時間が来て眠ろうとしても、昼間にたくさん眠ったのでなかなか眠くはならなかった。1時間くらい眠れずにいると隣のおばちゃんがベッドから降りてスリッパを履いて病室から出て行こうとした。

僕の母親が「効いてきたみたいね」と声を掛けると、おばちゃんは「トイレじゃありません!」と少しキッとなって答えると病室を出て行った。さっきの会話が気に障っていたようだ。子供の僕にもわかる位の嘘だったが、彼女のギリギリのところのプライドだったんだろう。夜の病棟はシーンとしているので、遠くからトイレを流す音が聞こえてきた。何回も聞こえてきた。病室に戻ってきてからも僕が寝るまで何回も病室から出ていっては遠くからトイレの音が聞こえてきた。母ももう話しかけることはしなかった。

夜中に見事なオナラが出た僕は、翌日には一般病棟への移動が決まったが、母親が付き添いだったために女性用の6人部屋にお世話になることになった。僕以外の5人はおばあちゃんばかり。

隣だった女性は、手術は成功したが術後の回復に時間が掛かったらしく、僕が退院するまでは一般病棟に来ることはありませんでした。

 

 

僕が退院する日の午前中に新しい患者さんが入院してきた。40代くらいの奥さん風の方で、いま思い返せばかなりエッチな雰囲気を醸しだしていた気もするが、やっぱり僕にとっては母親と同年代のおばちゃんにしか見えなかった。

奥さんは僕達に一通り挨拶を終えると自分のベッドのスペースに入った。「カーテンって閉めてもいいんですか?」奥さんがみんなに聞いたが、おばあちゃんたちは「どうぞ、どうせ看護婦に開けられるけどね」と感じの悪い返事を返す。部屋の雰囲気が一気に重くなった。おばあちゃんたちは奥さんの何かが気に入らないようだ。「閉めます・・・」小さな声でそういうと奥さんはカーテンの内側でゴソゴソと何かを始めた。多分奥さんは着替えがしたかったんだろう。すぐにカーテンを開けた奥さんはパジャマ姿になっていた。

ちょうどのタイミングで婦長がガラス製の浣腸器と差し込み式便器を両手に抱えて病室に入ってきた。僕はこの婦長が大嫌いだった。鬼瓦みたいな顔そのまんまにガサツな人だったからだ。

婦長は入って来るなり「浣腸します」と宣言した。奥さんが「えっ?ここでですか・・・?」と戸惑うと「それだったらトイレでしますか?」と婦長は矢継ぎ早に畳み掛ける。その態度が奥さんのプライドに火をつけたのか「ここでお願いします」と奥さんは答えてしまった。

(トイレですればいいのに)とも思ったけど、僕はもうカーテンの向こうの様子が気になってしょうがない。おばあちゃん達も僕と気持ちは一緒のようで全員会話をやめてしまった。病室の全員が奥さんの浣腸に耳を澄ませている。

「待たせたね~」

呑気な声を出しながら最悪なタイミングで父親が迎えに来た。
サッと母が父に耳打ちをすると「はる!ちょっとおいで」と僕は父に病室から連れ出されてしまった。いいところだったのに。

売店で飲みたくも無いジュースを飲まされて病室に戻ると、婦長と奥さんはもうベッドには居なかった。うんちの残り香もなかったので排便はきっとトイレでする事になったのだろう。

結局、それからすぐに事務所から会計の用意が出来たという連絡がきて、奥さんが戻ってくる前に泣く泣く病室を後にする事になったのでした。

ニアミスというかなんというか、べつに入院中に排泄音が聞けたり、残り香が嗅げたわけじゃないけれど、「病院」という空間での羞恥心や諦めといった心の機微に触れることが出来たことが、その後、性に目覚めた時に僕の性的嗜好に何かの影響を与えたという事だけは間違いないようです。

あと、小学生のころの話をよく憶えてるなと疑われるかたもいらっしゃると思いますが、記憶してしまうだけの衝撃を受けたという事もありますが、子供のころから何回も何回も想いだしたりメモに書いたりしていたので、一字一句までは同じじゃないけれど、けっこうリアルにこの当時の事を憶えていたりするんですよ。