ブラウンクリスマス

クリスマスですね。みなさんのところにサンタさんは来ましたか?
それともなまはげが来ましたか?

これは村長はるにブラウンサンタが現れたときのお話です。

 

いまから数年前のクリスマスイブ、以前から調子の悪かった愛車のマフラーが本格的に壊れてしまったので、僕は仕事のお昼休みに「カーコンビニ倶楽部」に行くことにした。

着いた店内はカウンターと待合用のテーブルが2席といった仕様になっていて、僕が店内に入った時点で先客が一人いた。 どうやらその時カウンターをオヤジさん一人で切り盛りしていたらしく、申し訳無さそうに少しテーブル席で座って待っているように促された。

先客は20代前半くらいの小柄な女性で、聞こえてくる話の内容から車のフロントガラスにヒビが入ったためここに来たようだったけど、なにやら話が難航しているらしくなかなか僕に順番がまわって来ない。カウンターのオヤジさんが丁寧に同じ説明を何回も繰り返す。それに対し彼女は要領を得ない様子・・・というか、心ここにあらずといった感じで話が前に進まない。僕が待っているせいもあってかオヤジさんの口調が少しずつ強くなってきた。

車にそれほど詳しくない僕が聞いても、オヤジさんの説明は端的でわかりやすいのに、彼女は相変わらずの様子でオヤジさんの話を聞いている。それを見て「こりゃ昼休み中に会社に戻れないな」と諦めかけたときに彼女が一言・・・

「・・・トイレ・・・借りてもいいですか?」

空気の読めない言葉。さすがに僕も軽い苛立ちを覚えた。

カウンターのオヤジさんも少し呆れたように「そこの扉を進んで左ですよ」と言い放つ。

そそくさとトイレに立つ彼女。

店内に嫌な静寂が流れた。
すぐに戻ってくると思ったらしくカウンターのオヤジさんもそのまま彼女の帰りを待つつもりのようだ。僕に軽い会釈をしたあと彼女の見積書らしきもののチェックを始めた。

僕はなにげに正面の壁に掛かっている時計を眺めていた。
一分経過・・・二分経過・・・三分経過・・・

「あれ?」

四分経過・・・彼女はまだ戻ってこない。

「もしかしてうんこ?」

さっきまでのイライラが消えてワクワクへと変わる。
壁時計の確認で8分と少し経ったところで彼女は戻ってきて、そのままオヤジさんとの会話を再開させた。

僕の頭の中は「うんこ疑惑」でいっぱいだった。

「確認したい・・・」
「でも、女の子がトイレに入った直後に入ったら怪しいって思われるかも・・・」
「変態って思われるかなぁ?」
「でも確認したい・・・」
「確認したい・・・」
「・・・確認する( ・`ω・´)」

意を決した僕はカウンターのオヤジさんに「トイレ借ります。」と宣言し「化粧室」と書かれた扉を開けた。
扉を開けると短い廊下があって、突き当たりに洗面台、その左にまた別な扉があった。そこがトイレらしい。

「どうかうんこでありますように。」

祈るような思いで前に進むと、なぜかトイレのドアがきちんと閉まらずに10センチくらい開いている。それも何か意図的な開き方で・・・

一気に僕の疑惑が確信へと変わった。

ドアノブを引きトイレに入った瞬間、刺激的な臭いが僕の鼻を直撃した。それは「便臭」というよりむしろ「下痢臭」といった方が的確で、これでもかというくらい個室内に充満していた。

高まる鼓動を抑えつつ和式便器の前で分析を開始する。

「クンクン・・・これはトイレ臭じゃない」
「硫化系の下痢臭だな」
「重いタイプの臭いなのかまだ大気に混じりきってなくて個室内に臭いの強弱があるぞ」
「それにしても臭い・・・」

チンチンが勃っちゃっておしっこが出ない・・・

甘い匂いにすら感じられたその下痢臭を、僕は脳裏に焼き付けるために何回も何回も深呼吸した。本当に肺胞の隅々まで行き渡るように胸いっぱいに。

トイレのドアが少し開いていたのは、トイレに篭っちゃったうんちの臭いを少しでも早く紛らわせたいという乙女心的工夫だったようだ。すぐ後に僕がトイレに入ると言ったとき、それを聞いた彼女はいったいどう思っただろう?なんだかちょっと彼女が愛おしく感じられた。お腹壊してたのかな?

あんまりトイレに長居をしてしまうと顔を拝めないうちに彼女に帰られてしまう。ぼくは後ろ髪引かれる思いで下痢臭の満ちた個室を後にした。どうしても顔を再確認したい。いや、「僕にうんちの臭いを嗅がれた事を認識している女の子の顔」が見たい。

トイレから出るとちょうど話を終えた彼女が帰るところだった。
前から見る格好でしっかり品定めしてから擦れ違ったが、そのとき彼女は僕の視線に気付いて顔を伏せたままお店を出て行った。僕にうんちの臭いを嗅がれた事を悟って、ハッとした表情をしてから顔を伏せる様がとても可愛かった。

正直美人ではなかったけれど、お洒落な格好でちょこちょこ歩くさまがさっきの下痢の臭いと相まってとても可愛らしく思えた。

きっとお腹が痛くてオヤジさんの話なんか聞いていられなかったのだろう。であればあの行動も仕方がなかったのかもしれない。仕事中の格好じゃなかったところをみると、最初からここが目的で家からやってきたということか。来る途中にお腹が痛くなったのなら、隣の大きなスーパーのトイレでうんちをした方が誰にも悟られずにゆっくり出来ただろうし、オヤジさんとの会話中に便意を催したんだとしても、あと5分我慢できさえすれば隣のスーパーにだって近くの大きい本屋さんにだって行けたのに。それが我慢できなかったという事はそれ程までに急な下痢だったというわけか。そうじゃなかったらなかなか「カーコンビニ倶楽部」でうんこはしないだろう。僕だったら絶対に無理だ。

お店に来てオヤジさんと話しているうちにお腹が痛くなってきた。
でもなんとか我慢しようとした。
お腹が痛くて話が頭に入ってこない。
トイレ借りようかな?でもなんか恥ずかしい。
あっ、次のお客さん(僕)が来ちゃった。
下痢だ、どうしよう。
我慢できない・・・
どうしよう・・・
・・・
「・・・トイレ・・・借りてもいいですか?」

戻ってきて

あ~間に合った。
さぁ修理だ。
えっ、この人(僕)もトイレに行くの?
うんちの臭い嗅がれる・・・
早く帰ろう!

ヤバイ、(僕が)出てきた・・・顔を伏せなきゃ!

想像ですが多分こんな感じだったんでしょう。

便意に負けた女の子の行動。しかも強烈な下痢臭のおまけ。

これ以上ないプレゼントをもらう事が出来ました。
まさに彼女はブラウンサンタだった訳です。
そしてこの日は僕にとって忘れられないブラウンクリスマスになりました。

自分が下痢をした後にトイレに入られる気持ちってどんななんだろう?

しかも異性に。

10センチの隙間にその娘の生活感を感じる事ができて更にちょっと萌えました。
それ以来ぼくのところにはサンタもなまはげも来ていません。

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